全国に数あるそばの中でも、その呼び名に市町村名を冠したそばの代表格といえば「戸隠そば」であろう。言うまでもなく、まさに戸隠が有数な霧下そばの産地として名高いことに由来する。
戸隠そばの特徴として
挽きぐるみ(ソバの甘皮を取らずに挽く)の蕎麦粉を使用すること。中には玄そばまで挽き込むこともある。
延すとき、四つ出し(四角く伸ばす)をせず、丸延しすること。
麺棒は一本のみ。
水を殆ど切らずに出すこと。
「ぼっち盛り」と呼ばれる独特の盛り付けをすること。「ぼっち盛り」とは、一つのざるに5ないしは6束、開口部のつぶれた馬蹄形状に盛る形式をいう。ぼっち(束)の数は戸隠内の地域で変わる。
根曲り竹で編まれた円形のざるに盛ること。
「ざる」であっても海苔がかけられないこと。
薬味には、今は「信州の伝統野菜」に認定されている地元の「戸隠大根」と呼ばれる辛味大根を使うこと。
蕎麦が出てくるまでの間に大抵は自家製の漬物などが供されること。(これは信州各地のそば処でも同様)
戸隠はまた「天の岩戸開き」の勇壮な伝説が残る“神話のふるさと”としても有名だ。中社、宝光社、九頭龍社、日之御子社、そして杉の木が連なる幽玄な参道の果てに鎮座する奥社を総称した戸隠神社には、毎年多くの参拝者が訪れている。しかし、神々を祭る地でありながら、明治期の初めに神仏分離が行われるまでは、山岳密教の修験者が集う仏教の修行場でもあった。戸隠三千坊という言葉が伝えられるように、かつて周辺には数多くの宿坊が集落を形成していたという。戸隠神社も「顕光寺」という神仏習合の寺院で、催事にはそばを打って神仏に供えるとともに、集まった人々に“寺方そば”を振舞っていた。戸隠そばの大きな特徴に「ぼっちもり」があるが、神仏にお供えする際にそばをきちんと束ねてザルに盛ったのが起源という説もある。
そんな歴史に想いを馳せながら、ぼっちもりのそばと戸隠の神秘をたぐってみるのもいいだろう。
戸隠でそばの薬味に欠かせないのが、大根おろしである。ねずみ大根の異名をもつ戸隠大根は、長さ15センチ位の小ぶりの大根で、ねずみの名が表すようにずんぐりした形で、しっぽが長い。辛味がたいへん強いので、そばの薬味としてうってつけである。この大根冬場は特に辛味が増し、そばの風味を一段と高めてくれる。
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Author:松本観光経済研究所